1 盗賊と少女

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* * *  セレードへの列車を逃したロストは、先ほど助けた少女と共に、街の外れにある小さな酒場で、次の列車を待っていた。  しかし、二人の間に流れる雰囲気はあまりいいものではなかった。ここに来る前からずっと、感謝の言葉をかけられ、深々と頭を下げられ続け、いい加減鬱陶しさもあったのだろう。だが、ロストは、もっと別の理由で、少女と顔を合わせるのを嫌っていた。 「ごめんね、オイラの相棒、愛想がよくなくてさ。誰にでもこうなんだ。人間嫌いとでも言うんだろうか」  口早に、そして滑るような語り口調で話すのは、二人の間の妙な空間を繋ぐように忙しなく動く、小さなイタチだった。白いふさふさの毛が、こげ茶色の、油の染み込んだテーブルの上で揺れている。 「ううん……ありがとう、コーヒーまでご馳走になっちゃって」  気まずそうに笑みを返した少女は、その後はっとして「ご馳走になってしまって」と言い直していたが、ロストは不貞腐れながら、椅子にもたれかかって、聞いてる様子は全くなかった。     
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