【第一章:マレビト・スズと風の国 一】

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 終業のベルが鳴った。  塾の講師は『高校受験はこの数日で勝負が決まる』だの、『推薦の結果待ちの者も気を抜かないように』とか、そういう意味合いのことを言って、教室を出て行った。  少年は机の上のテキストをまとめると、自分のバッグにしまい込み始めた。 「あれ、鈴木くん、もう帰るの?」  少年の左隣、窓際の席に座っていたブレザーの少女が少年に声をかける。  彼女は少年とは違う中学校の生徒だ。  塾以外でとくに何かを話すほど親しくはない。 「オレ、明日推薦の発表日だから」 “鈴木くん”と呼ばれた少年は曖昧に笑って答えた。 「親が早く帰って来いって」 「いいよな進一郎は推薦組だから!」  少年の真後ろの席に座っていたもう一人の少年が小突きながら笑いかけた。  彼は少年と同じ、詰襟の学生服を着ている。同じ中学の同級生だ。
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