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友梧と呼ばれた少年はそれを横目で確認すると、ニヤニヤ笑いながら「おう」と答えた。そして叫んだ。
「先に受かって俺を待っててくれ!」
進一郎は教室の扉越しに、それに答えて苦笑しながら軽く手を振った。
学習塾を出ると、外は予想以上に暗く、寒かった。
首をすくめ、バッグの中から濃いグリーンの毛糸のマフラーを取り出し、ダウンの上から顔の半分を覆い隠すようにそれを巻きつけた。
塾は小さな駅の前の一角にある。午後七時前の商店街の灯りはまだ明るく、人の通りもそれなりに多かった。
どのみち家には帰らなければならないが、早々に帰って母親や父親に下手に気を使われるのもうっとおしい。
少し暗くて遠回りになるが、人通りの少ない路地裏を選んで歩くことにした。
それは進一郎にとって気分が沈んだ時に選ぶ、秘密の通り道だ。
今は同級生や知り合いにも会いたくなかった。
明日から二月なんだなぁ、と進一郎は他人事のように思った。
一月最後の冷たい風が、少しだけ癖のある黒い前髪を乱して吹き抜ける。
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