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この期に及んで、まだ私は抵抗していた。
「まさか~!
俊くんが私を好きになるはず無いよ」
「またまたあ。気づいているクセに」
私、『水商売』と書いて
『読心術』と読むのだと思う。
以前は大雑把で
人の気持ちに無関心だった那月ちゃんが。
たった数カ月だけお姉さんのお店を
手伝ったことにより、
敏感に周囲の空気を読める人間に
進化してしまったのだ。
「だって、何も言われてないし。
それに向こうも知ってるんだよ?
私が和真と一緒に暮らしてるって」
上手く笑えずに
ふにゃっとした表情を作ると、
那月ちゃんはそんな私の肩を叩く。
「知ってるでしょ?
恋は生き物なんですよ。
勝手に育つし、勝手に猛り狂う。
ときには高く舞い上がるし、
水面下に潜ってしまうことも有る。
自分の中で龍みたいに動き回って、
誰にも飼い慣らすことは出来ません」
上手い表現だな、とか思って。
そして私はふと気づいたのだ。
「もしかして那月ちゃん、
好きなヒトが出来た?」
言葉よりも雄弁に
その表情は答えている。
「な…んで分かっちゃうんですか?」
「誰かな?経理の西くん…じゃないよね。
アレはもう彼女が出来たらしいし。
新たなる出会いでも有ったとか。
出会い?まさか…俊くんなワケ…」
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