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私とは対称的に、
息ひとつ乱さず彼は言う。
「佳乃ちゃんって走るの早いね。
もしかして学生時代は陸上部だった?」
「さ、茶道部ッ!」
ニコニコと笑顔のままで
更に俊くんは続ける。
「急用って何?」
「う…あ、えっと…」
残念ながらその答えは用意していなくて、
ひたすら言葉に詰まる私。
ジーッと視線を合わせたまま、
俊くんの顔が徐々に近づいてくる。
あ、私ったら寄り目だ。
俊くんの瞳に自分の姿が映るほど
ガッツリ至近距離で見つめ合う2人。
「ごめん、本当は用事なんて無いの」
「…知ってた。だってバレバレだし」
「そっか、バレバレだったか…」
「那月ちゃんと2人きりにして、
俺とくっつけようとしたワケ?」
小さくコクリと頷くと、
思いっきり鼻を掴まれた。
笑っているような、怒っているような。
その表情に、ドキリとする。
確かな言葉を告げられたワケでは無いし、
こちらから確認したワケでも無い。
でも、俊くんは全身で伝えてくるのだ。
…『好きです』と。
理屈で考えれば、分かっている。
私には和真がいるのだから、
俊くんとはもう会わない方が良いと。
このまま無かったことにして、
別々の生活に戻るのだ。
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