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「ダイエットとか違うし! 朝は食欲が無いだけ! 決めつけないでよ、うっざ……」
娘の愚痴と軽い足音は、階段を下りた先にある玄関前の通路を奥に抜け、トイレにまで続いた。
「こら、そんな言葉使わないの! ――お父さん、起きてください! 遅刻しますよ!」
彼女は次に、夫に呼びかけた。
その間も手は止めず、油揚げを切り終えると沸騰していた鍋の火を弱め、粉末状の万能ダシを入れてかき混ぜる。
するとまた、二階のどこかのドアが開いて、廊下がきしむ。娘とは違い、きしみも足取りも重くて鈍い。
それが階段に移ったところで、初老の気配を感じさせる、痰の絡まった咳き込みが聞こえてきた。
「お父さん、トイレはお姉ちゃんが入ってますからね」
「んー」
間の抜けた大きなあくびをし、ぽっこりお腹をかきながら、夫ものっそのっそと玄関前通路を奥に進む。
娘が使用中のトイレの先には洗面所と風呂場がある。
夫はその洗面所に向かっていたが、何故か途中で足を止め、トイレのドアをノックした。
「なにっ?」
娘が鬱陶しそうな返事をすると、夫は無言のままに大きな屁を一発かました。
「もぉー! 最悪!」
娘は怒声を上げ、ドアをガツンと蹴った。
「へっへっへっ、すまんすまん」
満足気な笑みを残し、夫は洗面所に消えた。
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