男前にプロポーズ……なはず

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今思い返してみると、王牙との出会いはおかしな事ばかりだった気がする。 それこそ、まだ出会ってない時。一人暮らしをしたばかりで、ゲイデビューだ!なんて張り切って二町目に出向いた事があった。結局雰囲気だけ堪能して帰って来た訳だけど、男にストーカーされて挙げ句部屋まで来そうで、それだけは避けたくて暗い路地に入った事があった。普通なら明るい場所を目指して行く筈なのに。何か感じたのかもしれない。笑いながら追いかけて来る相手に、追い付かれると思った時に、空気が変わったんだ。 何があったのか、路地から出た時にはストーカーはいなくなってた。それで目の前には鞄の中身を道にぶちまけて倒れる間抜けな男がいたんだ。それが王牙だった。 何でも出来てイケメンで、回りが羨むような男が理想だった。それが王牙を見た瞬間、何も出来なくても情けなくても頼り無くたっていい、ただ彼しかいない、なんて思ったんだ。出会えた事が嘘みたいに思えた。声を聞いた瞬間に涙が出そうになった。今なら解る。それは全部、本当に嘘みたいな奇跡だったんだ。もしかしたら王牙が探しまくってたって可能性もあるけど。 「そう言えば黄金さんは漆史とどうなったの?」「どう、と言いますと?」 「ん?黄金さんは漆史が好きなんだよね?伝えないの?」 「え、ぁ……いや、それは、漆史が困りますよ、」 あはは、なんて笑う黄金さんに何か言おうとしたけど口を閉じた。だって黄金さんは全く気付いてないけど、庭に出る入り口付近で漆史がジッとこっちを見て、まるで石像みたいに微動だにしていないからだ。凄い、迫力と威圧感が半端ない。 光風の記憶の中で二人はとても仲が良かった、ように思う。黄金さんが漆史にハートが飛び散らんばかりにメロメロで、漆史だって満更でもなさそうだったのに。あの時はいつ死んでもおかしくないような時代だったから、恋愛するには難しかったかもしれないけれど。 今こうして二人がすれ違っているのを見ると確かに疑問も涌くけど、何だか微笑ましいというか、やっと恋愛出来るような環境になったんだなあ、って思う。 「まあ、いいか、二人は二人のペースで、さ」 「ア、アタル様、からかわないで下さい」 「からかってないよ、自分の気持ちを押し込めて、無理はしないでよ。折角、平和な時代に……てか王牙何歳なの?」 「それは多分ざっと、150か200ですかね」 「…へ、…へぇ~……」
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