魔界に来たのは初めて……なはず

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魔界に来たのは初めて……なはず

額に赤い痣を残して王牙と俺は礼拝堂のような所に立つ。 朝まではたんこぶが出来ていたのに、魔王の治癒力恐るべし。 てか魔界に礼拝堂っていいのだろうか。流石に大きな十字架は無いにしろ、完全に神に祈りを、な雰囲気の建物だ。しかも城の中央に位置する所だし。 「お待ち致しておりました、王牙様……それから、変な事を言う事をお許し下さい。お久しぶりで御座います、アタル様」 司祭のような服を着て、真っ白な長い髪。銀の角に、青い瞳。綺麗だと素直に思った。 「彼は黄金と言う。種族は人でも悪魔でもなく、竜人に属している」 「こがね、さん。え、竜人て?」 「そのままですアタル様。竜の人、竜が本来の私の姿です」 「え、……り、竜!?」 王牙と黄金さんを交互に見て本当に?と視線を送るけど、冗談半分で言っている雰囲気でも口調でもない。ここに来て、またとんでもない世界が広がっていく。人間って本当に無知なんだなあ、と若干現実逃避する自分が生まれるぐらい、驚きすぎてポカンと口が開いて、多分今の俺は間抜け面だ。 「えと、王牙が会わせたい人って、黄金さん?」 「いや、黄金はこの場所を守ってくれている。会わせたい人の案内役だよ」 「ええ、お話は伺っております。アタル様は少々混乱されるかもしれませんが。こちらです」 大きな金の竜が彩られた、ステンドグラスの下の大きな扉をくぐると、長い廊下と上に続く階段が見えた。黄金さんが先導して歩いて行く。 「黄金の髪は昔は全て金色だったんだよ」 「へえ……竜も金?」 「ええ、昔は。今は輝きも失った、白い竜です。とてもお見せ出来るものではありません」 「色々あったんだよ……本当に」 遠くを見るような二人の表情は、何かを思い出しているようだった。俺の知らない何かが、この先にある、そんな予感がした。 階段を登った先に白い扉があった。黄金さんが手をかざすと、一気に模様が浮かび、重い音を立てて勝手に扉が開く。中から湯気のような、冷気のような、煙が足元を覆って、息を呑んで中に足を踏み入れた。 「うわ」 歓喜する程に綺麗だった。 真っ白の中に、煌めく星が散って、壁に当たっては弾けて消える。小さな部屋で、真ん中に、たった一つ、ガラスケースが置いてあった。近寄って見てみると、中に人が見えて、ああこれは、棺桶かもしれない、と思ったんだ。
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