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『終の語り』
福之助の淹れた番茶を啜りながら、俺たちは縁側で月見と洒落込んでいた。
見上げた秋の夜空には、黄色いまんまるのお月さんが笑ってらぁ。
すすきをやんわり撫でていく風が、こそこそと俺の髭にも悪戯しやがる。くすぐってぇが、何だか気持ちいいんだよな。
『しかし、雌の心に疎いお前が、その魅力を語るとは恐れ入ったぜ。まあ、猫だがな。人の雌ならわからんぜ?』
「否定はしませんよ、よく言われますから。十三郎さん、どうしてでしょうねえ」
『けっ。俺に聞くなよ。花より団子なんだろうが、お前も小雪もよ』
「いいじゃないですか。団子を食べた顔が、花のような笑顔になるんですから、ね」
そう言って笑う福之助。
雌はこの緩い笑顔にコロっといっちまうのか?まあ、いい。
明日は人の客が、あの酔いどれ招き猫を引き取りに来るんだったな。安心しろ、俺がちゃあんと番をしておいてやる。
きっと猫の客も来るぜ?
俺の勘は当たるからな。
真っ赤に色づいた紅葉がひらひらと舞い落ちて、湯気立つ湯呑みに蓋をした。
ー完ー
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