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「小雪さん、お待たせしました。土鍋は年季物ですが、これを使いましょう」
「味があっていいですわ」
でん!とちゃぶ台に乗せた土鍋は伊賀の土鍋だ。栗皮茶の焼き色が渋い逸品だな。
「カメラなんですがね、数年前のフィルムがまだ残ってまして。さっき試しに撮ったら、ほらこの通り」
「まあ!ポラロイドですの?レトロであたくし嫌いじゃないわ」
福之助よ。薄型だ軽量化だと言われる時代にお前、ポラロイドカメラとは。ここまでくるともう、古き良きってやつだな。
撮った写真はすでに風景が浮き出してきている。少し青味がかってくすんだ色調が雰囲気のある絵に見せるから不思議だ。なんてことはねぇ、白い招き猫が福よ来いと右手を上げているだけなのによ。
「さあて、準備も整いましたし。小雪さん、さっそく撮ってみましょうか」
湯呑みや菓子を盆に載せ縁側へ下げると、福之助はカメラを構えてみせた。
小雪はしおらしくお辞儀すると、もう一度白玉の見本をちらりと気にしてからちゃぶ台へと上がった。正しくは、ずんぐり重くて飛び乗れずに、福之助に支えられてやっとだったんだが。
兎にも角にも、こうして『土鍋猫』撮影会が始まったわけだ。
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