『小雪』

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「よいしょっと・・・・・・あら、いやだ。土鍋って思ったより小さいんですのね」 言っておくが、寄せ鍋なんかに使うでけぇ代物なんだがな。 恐る恐るといった調子で、土鍋の中に前脚をとすんと入れる。 「どうですか?横になって丸くなれますか?」 「ええ、なんとか・・・・・・ーーふぎゃん!」 「大丈夫ですか?気をつけてくださいよ」 「おほほ!ちょっと足が滑りましたの」 まったく、鈍くせぇな。まぁ、結果的に土鍋に横たわったわけだが。 「これで可愛く丸くなれば、ふにゅうう。素敵な、写真が・・・・・・」 おいおい、ぎゅうぎゅう詰めで苦しそうだぞ。土鍋からはみ出さんばかりじゃねぇか。主人の言葉を借りるなら、土鍋に詰め込んだ特大鏡もちか。 「小雪さん、撮りますよ」 「ふぐぐぅ、いいですわよぉ!」 白玉の至福の寝顔には程遠い、苦悶の表情を浮かべる小雪。満員電車に押し込められる、疲れたサラリーマンが頭を過っちまった。 その後も、丸くなったまま顎を鍋の縁に乗せてカメラ目線だとか、両脚を土鍋から投げ出し肉球を見せるポーズに挑戦したんだが、どうにも上手く撮れているようには思えねぇ。 出来上がった数枚の写真を縁側に並べる。それを眺めた小雪は、案の定深い溜息を落とした。 「どうしてですの?白玉ちゃんと同じポーズなのに、全然癒されませんの・・・・・・」
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