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小雪は縁側に置いてあった盆の上の菓子に鼻を近づけた。すん、と匂いを確かめ喉を鳴らす。両手でむに、と器用に挟んで持つと大口開けて頬張った。
「むにゃああ・・・・・・。このカステラのふわふわと甘ぁい餡子。あたくし・・・・・・幸せ」
その時の小雪の顔ときたら。
見ているこっちも幸せ気分よ。
今までの苦労なんざ、まるで吹き飛んじまったみてぇだ。
目尻が下がって波模様。もぐもぐ頬張る口は緩みっぱなしで、にんまり笑ってやがらぁ。
至福の時ってのは、まさにこのことだな。
ほんわか眺めていると、不意にカシャ、と音がした。
何だ?
ぴくりと耳を立て、音の方へ目を向ける俺と小雪。
「はい、小雪さん。とってもいい顔を頂きました」
見ると、福之助のやつが構えたカメラから、ジーと写真が出てきやがった。
「むぐ!?酷いですわ、福之助さん!最後の一枚ですのにっ」
慌てて饅頭を飲み込み、にゃあにゃあ反論する小雪。
「まあまあ、僕に任せると言ったでしょう。少しお待ちなさい。ね、小雪さん」
「ふにゅうぅ」
なだめられ、ふて腐れたツラで写真が浮き出てくるのをじっと待つ。
十秒。
二十秒。
やがて、じんわり浮かんだ懐かしい色。
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