『序の語り』

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俺は猫だ。 名は、十三郎。 飼い猫、野良猫溢れるこの町で、昔はでけぇナワバリを持つ野良だった。 欠けた右耳も潰れた左目も、雄の勲章ってやつよ。まぁ、おっ死んじまった今となっちゃあ、自慢話にもなりゃしねぇが。 今はしがない居候猫よ。 どこで居候してるかだと? 俺はあの世に魂持っていかれる前に、猫の神さんに頼んだのよ。 『招き堂』で番をさせろ、とな。 招き猫しか売ってねぇ一風変わったこの店にゃ、猫と話せる福之助って不思議な男がいる。この町の猫どもは困ったことがあったら、こいつに相談しにいくのさ。 なあに、この世に未練があるわけじゃねえ。『招き堂』に駆け込む甘ったれな猫どもが、ちと気になっちまってな。 安心しろ、化け猫なんかにゃならねぇよ。あいつらが一人前になったら成仏してやる約束だ。 さぁて、今日も客人が来る予感がしやがるぜ。 人じゃねぇ、猫だがな。
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