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『小雪』
秋晴れとはよく言ったものよ。
まっさらな薄青の空高くにいるお日さんが、カサコソ揺れる紅葉の隙間からこの俺を照らしやがる。目を瞑ってもどうもチカチカとうるせぇもんだから、俺は戸口の横の特等席を諦めた。
木の腰掛けの上でのそりと起き上がり、ふて腐れたツラで大あくび。ボロくせぇが寝心地の良い藍色の座布団に、別れの頬擦りをくれてやる。
さて、どうしたもんかな。
さも面倒くさそうに、だが着地は音も立てずすとんと軽快に。腰掛けから降りた俺は、開きっぱなしの硝子戸から『招き堂』の中を覗き込む。
ずらり並んだ大中小の招き猫。色の白いの、黒いの、にやけてるツラの猫には睨みをきかせて前脚を踏み入れた。
「おや。お目覚めですか、十三郎さん」
眠気を誘うゆったり口調だが、相変わらず勘だけは鋭いな。この男が招き猫専門店『招き堂』の店主、福之助よ。
人相は雌が心許しそうな優男。別に羨ましかねぇ。ゆるく後ろで束ねた長い髪は、たまに猫どもがじゃれると爪に絡まる。
背に『福』の字をあしらった若草色の羽織物、少々くたびれたズボンに下駄。
まだ若ぇ癖に、文明に疎いジジくせぇ男よ。
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