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「ごめんくださいまし。こちら『招き堂』で間違いありません?」
訪ねてきたのは婦人猫だった。
人でいうところの、昼のワイドショーやバーゲンセールに目が無ぇ、「ナントカさんの旦那がどうした」だの井戸端会議に夢中になる年の頃だな。
脚の先が隠れるほどの長く白い毛並は滑らかで、毛玉なんか一つもありゃしねぇ。一発で飼い猫とわかるその容姿と、いいもん食ってるんだろうなと想像しちまう恰幅の良さ。
雌に対して失礼か?だが、仕方ねぇ。
「ええ。こちらです。どうぞどうぞ、お入りください」
「あら!本当にお話出来るのね。噂通りだわ。じゃあ、貴方が福之助さん」
婦人猫は、背負っていた重たそうな桜色の風呂敷包みをよっこいしょと地に降ろすと、深々と頭を下げた。
「あたくし、小雪と申しますの。福之助さんに折り入って相談事があって参りました」
「おやおや、ご丁寧にありがとうございます。相談事、ですね。今片付けますので、奥の縁側で日向ぼっこでもしながらお待ちください」
店の奥に続く和室へと案内すると、絵付け途中だった酔いどれ招き猫を新聞紙の上にゴトリと置き、筆と菊皿を流しへ下げる。
俺は歩幅の小せぇ小雪を追い抜かし、一足先に縁側へ辿り着くと隅で丸くなった。顔だけ動かして流しに立つ福之助を見やる。年季の入った薬缶を火にかけ、茶の用意をしているようだ。
小雪はというと、縁側を見渡した後、将棋の盤を挟む茜色の座布団に座るかしばし悩んだ末、どっしりと腰を下ろした。いや、婦人は遠慮がちに座ったんだろうが、座布団の沈み具合から見るとどっしりだな。
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