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相談事と言っていたが、この婦人猫、悩み苦しんでいるといった様子でもねぇ。確かにそわそわと落ち着きねぇが、他人の家だしな。ひらり舞う落ち葉と、持って来ていた桜色の風呂敷包みを交互に見つめたり、古くせぇ戸棚やちゃぶ台があるこの部屋をキョロキョロと見回したり。
そうこうしていると、流しから突然ぴぃぃ!と甲高い音が鳴りやがるから、俺はビクリと身を震わせぶわりと総毛立った。薬缶のやつめ、今日は油断していたぜ。俺の負けってことにしといてやらぁ。
急須にサラサラパラリと茶の葉を落とし湯を注ぐ。ぼわんと立ち昇る白い湯気に飛びかかりジャブの一つでもかましてぇが、そこはぐっと堪える。
やがて「どうも、お待たせしました」と、まぁるい盆に湯呑みと茶菓子を載せた福之助が姿を見せた。
「さあ、熱いですからね。火傷に注意してくださいよ」
ちゃぶ台の上にどこぞの陶芸家作の渋い湯呑みを三つ、コトリと並べる。
「まあ、煎茶ですのね。良い香りだこと」
居住まいを正した小雪が、とすとすとちゃぶ台の方へやって来た。そこで三人分の湯呑みに気づき、はて?と首を傾げる。一つは俺の茶だ、飲むんじゃねぇぞ。
「茶菓子もどうぞ。宮島からの土産物を頂きまして」
「あら!もみじ饅頭!あたくし、これ大好物なのよ。うふふ」
「それはよかった。さあさ、まずはゆっくりと味わいましょうか」
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