1人が本棚に入れています
本棚に追加
ねこぎらい
いつの頃からだろう?
とにかく私はアレが大嫌いだった。
丸く大きな、しかし残忍そうな瞳。
敵意と同じく巧妙に隠された爪。
ふとした瞬間に覗かせる鋭い牙。
そして何より、気配を消して我が物顔で、そこらじゅうを好き勝手に動き回るあの姿。
――猫。
そう、あの猫という生き物に対して、私は物心ついた頃には既に憎悪とも恐怖心とも呼べるような、深い嫌悪感を抱いていた。
今日も私は、いつものように近所の商店街へと足を向ける。
空は青く澄み渡り、千切れた綿菓子のように白い雲が所々に浮かんでいる。
早春の木々は淡くも鮮烈な緑で梢を飾り、そよぐ風は肌を心地よくなでた。
それでも私は曲がり角にたどり着く度に足を止め、周囲にアレが居ないことを確認する。
壁に身体を押し付け、そっと道の向こうを覗き見て、耳をそばだてる。
臭いも音も姿も無いことを確認すると、私はやっと次の曲がり角へと歩みをすすめるのだ。
はたから見れば挙動不審かもしれない。
説明をしても一笑に付されるだろう。
それでも私は次の曲がり角に着くと、やはり足を止め、周囲を見回すのだ。
最初のコメントを投稿しよう!