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――にゃあああおおおおおう……
まるで悪魔の発する呪詛に満ちた言葉のように、それは突然私の頭上に響く。
それを聞いた私は目を見開いて空を仰ぎ、塀の上から私を笑うアレの姿に身をすくませた。
呼吸が浅くなる。
体中から汗が吹き出す。
縦に窄められた金色の瞳が宙を舞うのと同時に、私は呪いを振り払い、転げるように走った。
今はもう隠すこともされていない鋭利な爪が、一瞬前まで私の立っていた地面をえぐり、小さな砂埃を舞い上げる。
――しいいっ!
苛立ちに満ちたアレの鳴き声を背に、私は脇目もふらず、夕暮れの商店街を駆け抜けた。
人混みの中を縫うように、全速力で走る私の周囲から、怒号と悲鳴が降り注いだが、そんなものにかまっている余裕はなかった。
こんなにも全力で駆けているにも関わらず、そんな私をあざ笑うように、アレの姿が視界の端をかすめる。
店の屋根に、路地のゴミ箱の影に、時には見知らぬ子供に抱かれて、アレは私に向かって口の端を吊り上げてみせる。
その姿を見るたびに、私は反対方向へと走り、もう自分の体が自分では制御できなくなってしまった頃、とうとう地面へと倒れ込んだ。
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