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「え、でも……」
「うち、伊都がもう勘違いしちゃってるし。その、ご迷惑でなければ、どうぞ」
「ぁ……じゃあ、これ」
彼が差し出したのはカット野菜の袋。
「ねぇ! コーチ、ほら、俺、もう宿題終わってる! 算数! なんかね。三年生になると、すっごい難しい問題とかできるんだって! だから、俺も頑張ろうと思って」
「へぇ、どんな問題?」
彼が伊都の話に返事をして、返事をされたからまた話して、会話になって、伊都が自然と手を繋いで家へと招いてる。早くここに入れといわんばかりに開けっ放しの扉から差し込む光に、彼の笑顔が照らされた。
「すげぇ難しいの。えっとね」
すげぇなんて、家では使わないのに。きっと学校じゃ男の子は皆、使ってるんだろうな。
「三人でふたつの林檎をびょうどーに食べるにはどう分けたらいいですか? って。でも、俺! わかっちゃった! 答え!」
「すごいね。伊都君」
おおらかな彼の笑顔はとても心地良い。子どもにも大人にも好かれているんだろう。
「仲良く食べる!」
そんな彼が殊更優しく笑った。
「おお。伊都君、天才」
笑って、その笑顔を眺めている俺をチラッと見て、お邪魔しますって顔で小さく会釈をした。その瞳はとても綺麗な澄んだ茶色で、琥珀みたいだなって。そう思ったら、なぜか、心臓がトコトコと慌てているような気がした。
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