2 チョコデラックス

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「おー、よかったね。伊都君」 「あ! コーチ!」  伊都がどのアイスにしようかと迷っていた時、ちょうど、さっき教えてくれたコーチのうちのひとり、男性がやって来て、にこやかに笑い、伊都の頭を撫でる。  髪が濡れてた。もう着替えを済ませているけれど、濡れた髪はそのまま無造作に後ろへ流してるだけ。 「レッスン、あの、ありがとうございました」 「いえ、あ、えっと、佐伯さん」  ガラスで隔てられているから、俺には向こうの話し声も水の音も聞こえなかった。ただ元気なコーチが笑って、真剣な顔をして応援して、何かひとつできると一緒になって喜んでくれていた。  レッスン前に挨拶した時は弾んだような声だったけど、伊都を気遣ってくれていたのかな。今、彼の声はすごく落ち着いていて、ゆったりとしている。 「すみません。今、チェックしたら、伊都君レッスン休んだことになってて」 「え?」 「あ、メンバーズカード、スキャンしましたか?」 「え? あ、すみません」  そうだ。忘れてた。レッスン受ける前に初回だから説明があるって、受付の女性が言ってたっけ。 「忘れてましたっ! あの、どうすればっ」 「平気です。俺が、やっときます。スキャンのやり方聞きました?」 「あー、いえ」 「じゃあ、説明しますよ」  すっかり記憶から抜け落ちてた。というか、水のことばかりを考えてて、緊張してて、そこまで頭が回ってなかった。ただ、水着と帽子だけは忘れないように。それとタオルと着替え。そのことばかり気にしてた。  でもコーチは笑顔で、カードのスキャン方法を説明してくれる。  来たら、レッスンを受ける前に青く「レッスン前」と書かれたラベルのあるスキャナーの前にカードをかざす。終わったら、「レッスン後」と書かれた赤いラベルのあるスキャナーで同じことをして、それで、伊都がその日のレッスンを受けたかどうかわかるんだそうだ。急遽来れなくなってしまった時でも、そのスキャンありなしで判断がつき、そのままインターネットで代替えレッスンの申し込みができる。 「今日は、どこからいらしたんです?」 「あ、えっと、隣町の」  コーチが目を丸くした。そして、口元を隠しながら、くしゃっと笑った。 「あ、あの」 「すみません。お住まいじゃなくて」 「?」
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