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滝のように落ち、流れゆく雫。
ぽた。
ついに目の前に雫が落ちた。不思議なことに色が付いていた。仄かな月光が唯一の光ではあったが、見間違えることなど有り得ないほど、雫の色は至極簡単に視認出来た。
暗黒。
ぽ、た。
黒い雫が横顔に触れた。冷たい、なんてものではなかった。体の芯から震えあがった。左。左側に何かが見える。黒い何か。私は見てはいけないモノだと悟った。必死に目を逸らす。その間も雫は落ちてくる。
ぽたぽたぽた。ぽたぽた。ぽたぽたぽたぽた。ぽた。ぽたぽた。ぽたぽた。ぽた。ぽたぽた。ぽたぽた。ぽた。ぽたぽた。ぽたぽた。ぽた。
どれほどの時間が経ったのかは分からない。気付かない内に音が消えていた。体も自由に動かせる。私は安堵の溜息をついた。雫の音ばかり聞いていたせいか、ひどく喉が渇いていた。冷蔵庫に飲み物を取りに行こうと私は半身を起こす。今までの出来事は全て夢。そう思った。
ぽた。ぽた。
自分の頭が急激に冷たくなった。駄目だとは分かっていたが、私はつい視線を天井に向けてしまっていた。
数十人もの子供たちが芋虫の如く、天井で蠢いていた。ドロドロに溶けた彼らの破片。それが雫となって降り注いでいたのだ。壊れ過ぎていて、形の判別すら満足に出来ない顔。どこに目があるのかもわからないのに全員から睨まれている気がした。叫び声どころか呻き声も上げられないまま、私は闇に沈み込むように失神した。
朝になって布団の周囲を見回したが、それらしいモノは発見出来なかった。
現在でも、祖母の家に行くと、あの仏間だった部屋で私は眠る。故に雨の日はさっさと寝なくてはならない。何故なら、聞こえてくる音が雨なのかそうでないのかが判別できないからである。
今日も雨だ。
ぽた。
ふいに左側から雫の落ちる音がした。
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