猫の手も借りたい・・・

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  元から肉体労働に縁のない男は、さっきから息を切らしていた。それはそうだろう。  懐中電灯のとぼしい灯りを頼りに、人ひとりを完全に放りこめる穴を掘っているのだから。  おまけに土は、砂場の砂ではない。木の根や大小の石に突き当たり、作業はなかなか進まないのだった。  春先でうすら寒いはずなのに、男の全身は汗にまみれている。 「まったく、手間のかかるーーただ、それだけの女だったけどさあ・・・」  疲労のあまり、男は意識せずにひとりごとをつぶやいていた。 「最後の最後まで、クソみたいな手間をかけさせやがる・・・ええと」  また太い根にぶつかった男は、手探りで穴のふちをさぐるのだった。  男は、用意だけは周到だった。替えのシャベルはもちろん、こういう時のためにノコギリや植木バサミ等々、各種の道具を持ってきていた。  ただ万一の露見を恐れて、灯りだけはこうこうと照らすことができない。  さっきから、道具を探すたびに苦労し。そうして、殺した女への憎悪がよみがえるのだった。 「まったく、役にたたないヤツだったが・・・金だけは遺してくれるってか。もっとも、今は猫でも何でも手伝いの方が欲しいけれどさ・・・うん? 」
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