猫の手も借りたい・・・

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 指先頼みで、穴のふちをさぐっていた手に、  ぽん  と、何かが渡された。偶然、触れたとか行きあたった訳ではない。明確な意志で「渡された」のだ。  感触で、それがまさに求めていたノコギリの柄だと分かった男は、無意識に言った。 「おっ、サンキュー」  ぞっ、と電流じみた感覚が体をはしりぬけたのは、その直後だった。 (何? 何だ、今のは?)  それはそうだろう。男は一人で作業しているし、また、一人でなければならなかった。  まして、ここは深夜の山中なのだ。人っ子一人、もとからいるはずもない。  だとしたら? (今、俺にノコギリを手渡したのはーー)  反射的に男は、例の包みの方を確認した。何の異常もない。最初と同じように、それは転がっている。それに。 (そっ、そんなハズは、ないっ。そうだろう。くっ、首がへしおれてーー顔はーー顔は!)  背後に、何かの気配がふくれあがる。  男はそちらを向きたくなかった。向いてはならないと本能が叫んでいた。  しかし・・・・・・  誰もいない山中に、獣じみた叫びが、こだました。  はっきりしているのは、それが獣ではないということだった。  いや、もう一つあるかもしれない。  つまり男が、 「役立たず」「手間ばかりかけさせる」  等々、散々悪態をついたその相手は。最後の最後に少なくとも一度だけは 「男の手間を、省いてやったかもしれない」  ・・・・・・と。
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