美味しいお話、知っちゃいましたわ

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   都内某所。大小様々な飲食店がひしめく歓楽街。  その隅っこに建つ、誰も寄り付かぬとある店。経営しているのかどうかすら怪しまれるその店が、まさかこの世に非ざる者達の集う場であると、一体誰が想像出来ましょう。  ワイングラスに入った真っ赤な液体。それをたった一口頬張るだけで、得も言われぬ満足感が、私の口の中を駆け巡りました。嚥下した後でも分かるのです。その液体が私の総身を駆け巡り、手足の末端に至るまで生きる力を与えていることを。 「なんて素晴らしい。これが『チャールズ・エリオット』ですのね。やはり、マスターがお作りになるカクテルは最高ですわ」 「身に余る光栄です、カミラ様」  私が喜びのコメントを口にすると、マスターはルビーのように真っ赤な眼をタンポポのような黄色に変えて淡々と答えました。  隆々たる漆黒の肉体をタイトなバーコートに押し込み、二本の大角を生やした鉄仮面の如き強面は、見た者を圧倒させるでしょう。けれども、瞳の色だけ分かる表情豊かな彼の仕草は、この店に訪れた者達を大いに和ませてくれます。私も、そんなマスターが可愛くて大好き。 「カミラ様お好みの人間から採取してブレンドした特製のカクテルになります。『チャールズ・エリオット』という名は、その中に含まれるものにまつわる戦から拝借いたしました」  ふと、私の脳味噌がとろんとするのを感じます。先程マスターが解説して下さったものが、恐らく作用しているのでしょう。それは、人間が摂取すれば間違いなく死に至るほどの猛毒。もっとも私には、死どころか心地よい『酔い』しか与えません。  あまりにも気持ちが良いので、私はそれに委ねてみます。自慢の豊かな胸をバーカウンターの上に乗せ、前方へと寄り掛かり……。  マスターが一つ咳ばらい。私、見逃してませんわよ。マスターの目だけではなく、頬のあたりまで赤くなっていた所を。全く、可愛いマスターなのですから。
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