美味しいお話、知っちゃいましたわ

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「ところでマスター? 私、三十年ほどこの地で居眠りをしておりまして、この辺りの詳しい情勢がいささか把握できておりませんの。何か、興味深い話はなくて?」 「そうですね。三十年の月日の間に、この国の経済状況は酷く落ち込みました。今でもなお、そこから立ち直れていない状況でございます。つまり」 「私達にとって、とても都合の良い状況になっている。ですわね?」  私が答えると、マスターは「ええ」とだけ淡々に答えました。  頬杖を付き、私は考えます。私がやって来たばかりの頃、日本は空前の好景気に湧いておりました。その時期は獲物が増える時期ではあるものの、決して狩りやすいわけではありません。どちらかと言えば、繁栄を謳歌する人間達の陰で、私達は細々と狩りをして暮らさざるを得なかった記憶があります。  けれどもマスター曰く、その時代は終わったようで。ただ、どのように都合の良い状況なのかについてまでは、流石のマスターでも把握できていないようです。残念。 「あ、カミラさんだ! おーい、カミラさーん!!」  もういきなり誰ですの? この落ち着いたバーの雰囲気をぶち壊す黄色い声の持ち主は。  不機嫌気にそちらの方を振り向くと、可愛らしい容姿の女の子がこちらへと飛んできたではありませんか。  私の美貌を高嶺に咲く絶美の華と例えるなら、彼女は野に咲く可憐な花。ただ、人間と大いに異なる点は、悪魔のような羽と尻尾が生えていること。そして、胸と秘部しか隠せていないほど衣服の露出度が高いこと。  種族はサキュバス。名はシエル。古くからの付き合いである、私の妹分ですわ。 「シエル、いきなりなんですの? 私は目覚めたばかりで、マスターとゆっくり話をしていたい気分でしたのに」 「それはすいませんです。ですが、是非ともお渡したいものがありまして」 「渡したいもの?」 「ええ、絶対に気に入ると思いますよ」
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