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一旦、一息。そして私はシエルの目の前で、まだ飲み物が残っているグラスへちらりと視線を映して見せました。
「そうね。それは食べ物かしら?」
「ええ。もしかして、もうお腹一杯な感じですか?」
「いいえ。今私が頂いているのは、狩りの前の食前酒。アヘン入りの血なんて、この国ではこの店くらいでしか手に入らないですもの」
「そうですか。それならよかった。私がせっかく準備したプレゼントが、満腹で食べられないとなっちゃ大変でした」
「なにそれ? それは、あなたがそんなに豪語なさるほど素晴らしいものなんですの? 面白いですわね。せいぜい、この私を失望させないで頂戴」
「はい。それでは、付いて来てくださいな」
私は残りの『チャールズ・エリオット』をぐいっと飲み干すと、早速シエルの後を付いていくことにしました。
彼女に案内されたのは、この店の二階にある別の部屋。
シエルに案内されて中に入ると、シミとカビがやたらと目立つフローリングのど真ん中に、何やら変なものが置かれてありました。白い不透明な布がかぶせられた、そこそこ大きめの何か。
「なんですの、あれ? 変な呻き声が聞こえますわよ? それに、微かですけれど、そんなに嫌じゃない匂いもしてきますわ」
私が尋ねると、シエルは「ふふふ」と微笑みます。そして、その布を盛大に翻しました。
中にあったのは、手足を椅子に固定され、猿轡を噛まされた人間の男性でした。小太りした体形に、薄汚れた下着姿。頭頂部を超えて後退した生え際に各部の皺から見るに、中年の男性でしょう。そんな人間が、目を皿にして私達を凝視しておりました。
無理もないでしょう。布を取り払われた瞬間、目の前に私達の麗しい姿が、彼の目に飛び込んできたのですから。
けれども、本当に驚いているのは私の方。だって、
「素晴らしい! なんて素敵な方ですの!?」
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