美味しいお話、知っちゃいましたわ

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 私は興奮を抑えきれませんでした。今の気持ちは人間で例えるなら、極上のお菓子を手渡された子供のよう。 「良いんですの? シエル、本当に私のものにしちゃっていいんですの?」  今までの落ち着いた私はどこへやら。瞳を輝かせ、シエルに確認しちゃいます。だって仕方ないですもの。彼から感じる香りが、彼が『本物』であることを否応なしに証明してしまっているのですから。  「どうぞ」というシエルの返事は、私の最後の枷を完全に解きました。身動きのとれぬ男の頭部を片手で抑え、もう片方の手で肩をしっかり掴むと、その首筋に長い犬歯をうずめます。  吸血。  男の命を感じます。首筋から私の歯を介して、男の生命や活力そのものが私の身体へと取り込まれていくのを感じます。ああ、なんて美味なのかしら。人間の血というものは。  何より、この血は他のものよりも格別。血の中に精力の塊みたいなものが封じ込められていて、それが私の身体中を駆け巡るような感覚がするのです。  首筋から歯を離し、残りを飲み込んでもなお留まる口の中の充実感。この快楽は、他の人間では中々味わえません。なぜならこれは――、 「凄いですわ、シエル。この歳まで性交をしていない男性の血なんて、そうそう見つかるものではありませんわ。よくぞ見つけて、私にプレゼントして下さいましたね」  中年童貞――異性と情交をせぬまま三十年以上を過ごした男性の総称。私がうたた寝をする前までは、ほとんどの人間が子を設けていた為、中々見つかる代物ではございませんでした。そんなレア物を、覚醒して早々の私に献上して下さるなんて。シエルは本当に良い子――。 「ありがとうございます。でも、本当に凄いのはここからなんです。実はその中年童貞、最近、この国で増えているみたいなんですよ!」  それは、私を瞠目させるには十分すぎる言葉でした。
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