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シエルの言っていることは本当でしたわ。なぜなら都心の繁華街を離れてすぐの場所で、早速よさげな獲物を見つけてしまったからですもの。
瓦屋根の上から眺めているのですけれど、なんともみすぼらしい男だというのは非常によくわかります。着ているスーツは撚れておりますし、姿勢も猫背です。容姿の良し悪しはよく分かりませんが、少なくとも、群れから弾き出された個体だというのは大体分かります。
素敵。そういう獲物が一番狩りやすいんですの。私、大好き。
「ちょっとカミラさん、涎出てますよ。ちゃんと、私達の分まで残しておいて下さいね?」
「死んじゃったら、私達は精が採れないんですよ」
我に返って振り向きますと、シエルを含めたサキュバスの方々が心配そうにこちらを見ておりました。彼女達はシエルと同じく、私を敬愛して付いてきた方々です。私が狩りをするからと、そのおこぼれを頂くために付いてきたみたいですわ。ま、これは、私達の間ではよくあることですから、別に気にしてないのですけれど。
「失礼。あの方から感じられる芳しい香りに、少々抑制が効かなかったようで。でもご心配なく、私にこんな美味しそうな情報を教えてくれたご褒美に、ちゃんと残して差し上げますわ」
既に一人目を食したんですもの。二人目はあんまりお腹に入らなさそうですし、残りをあの子たちに食べさせた方がベストですよね。
そうこうしているうちに、獲物の男はアパートの小さな部屋の中へと入っていきました。
身なりもそうでしたけど、住処も随分とみすぼらしいですわね。この御時世、人間達が寝静まる夜遅くに町を歩いているなんて、よっぽど遅くまで働いて稼いでいる方ばかりだと思っていたのですが。マスターが言っていたことと、何か関係でもあるのかしら。
何はともあれ、逃げ場の少ない巣穴の中へ獲物が入った今が好機。狩りの開始ですわ!
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