第一章

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第一章

 住宅街の一角にそびえる煉瓦造りの家。  無個性な白い家が立ち並ぶ中、陽光に照らされたその建物だけがまるで別世界から突然現れたかのような不思議な存在感を放っていた。  ここには現在四人家族が住んでいる。だがその実態はこの家の外観からは想像も出来ないほど暗く淀んだものだった。   「思っていた通りだ。あいつをクビにしたらあっという間に好調だよ。何故もっとはやく厄介払いしておかなかったのか」  桐生操。大企業の社長を務めており、今年で四十七歳になる。その権力を利用してか、何人もの女性と関係を持っていたり気に入らない部下はすぐに捨てたりとやりたい放題であった。 「深春、悪いけどお皿洗っといてちょうだい。お母さん今手が離せなくて」  そう言いながらネイルで飾られた手をしみじみと眺めているのは操の十六歳下の妻、桐生佳恵。良い母親を演じているが子供のことは自分の価値を高める飾りとしか思っていない。
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