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思えば兄は自分に優しくしてくれたことなんてなかった。
毎日毎日、両親の居ない時に深春は虐めを受けていた。先程のように背後から蹴飛ばされるのもあれが初めてではない。
一度理由を聞いたが返ってきたのは『存在がむかつく』だった。つまりは何も悪いことをした訳でもないのに辛く当たられていたのだ。
それなのに何故か深春は冬樹を憎むことが出来なかった。それどころか、居なくなったら悲しいとまで思っていた。兄に虐められていることを黙っていたのは脅されたからだが、深春自身の意思でもあった。
この感情の正体が分からない。今までこんなことなかった。兄以外にこんな感情を持ったことがないからどうすればいいのか分からない。
自分は兄のことが好きなのか。分からない。だってあんなに嫌われているのにどうして好きになるのだろう。
『良いよなぁ深春。大事にされて』
違う。違うんだ。
皆が大事にしてるのは僕じゃない。
僕はただの“入れ物”なんだよ。
宝箱があったとして、愛されるのは中にしまわれた物だけ。箱を愛す人は居ない。
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