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――どうして。
じわりじわりと体を蝕んでいく痛み。ポッカリと体に空いた大きな穴からは、彼の体に本来なければならないはずのものたちを視認することができない。なぜか。その答えは簡単だ。
震える片手を動かし、腹部をまさぐった。あるはずのものが無いその違和感に、脳は徐々にこの現状を理解しようとする努力を失っていく。
――なんで。
力の入らぬ首を無理矢理に動かし、視線を横へ。冷たく固い灰色の地面に頬が擦れるが、そんなことは気にしていられない。
視点の変更。それにより、新たな景色が彼の視界の中に写り込んでくる。
長く、長く続く闇の中に、ぽつりぽつりと浮かぶ炎。紫という、通常では有り得ない色のその炎に照らされた地面は、赤く、赤く染まり果ててしまっている。
――俺が、一体……。
赤い液体の中、所々膨れ上がった箇所。目を凝らさずとも、それが自分の中に本来なくてはならないものであることは、なんとなくだが理解できた。理解できたが、理解したくはなかった。
痛みからか、はたまた屈辱からか。彼の虚ろになりつつある瞳から、透明な雫が溢れ出る。雫は彼の頬をゆっくりと伝い、地面へと落下。広がる赤に呑まれ、やがて、消えていく。
――ちくしょう……っ。
噛み締めた唇。そこから新たな赤が溢れた頃、彼――ジル・デラニアスはその生涯に蓋をした。
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