第一章 不思議なチラシ

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 ――酷い夢を見た。  寝相のせいで乱れたベッドの上、少年、ジル・デラニアスは頬を流れ落ちていく汗すら拭うことなく、ただ呆然とシワの寄った真っ白なシーツを握っていた。寝起きのせいか、はたまた悪夢をみたせいか、脳は覚醒していない。そのためか、外から聞こえる己の名を呼ぶ声にすら反応できない。それほどまでに、あの夢は彼を苦しめている。  ――ジル・デラニアス。  この名を再び与えられたことは、一体どういう因果だというのか。  ジルという少年はとある民家に産まれた子供である。父は獣族。母は人間の、最近では特に珍しくもない人間と獣のハーフだ。そのためジルの茶色い頭には、獣族の血が流れているということを十分にわからせてくれる獣の耳が、手には鋭い爪が生えている。  獣族というのは本来、非常に身体能力が高く、戦闘において優れた才能を発揮する種である。だが、ジルにその才能はなかった。確かに人並外れた素早さは持っているが、彼の誇れる部分はそれだけだ。  武器の扱いに秀でているかと問われれば、否。殴ったら相手が吹き飛ぶかと問われれば、これも否。空高く跳躍できるかと問われれば、それは微妙。前に試した時は庭に生えた木には登れたがそこまでだ。他の獣族と比べれば大したことは無い。  汗の滲む顔を片手で覆い、ジルはため息を一つ。悪夢を振り払うように頭を振り、ベッドの中から床の上へとジャンプする。  一先ず顔を洗おう。話はそれからだ。  したっと見事な着地を決め、彼は一人、大きく頷いた。
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