アリバイ枠の翔吾さん

2/8
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「初めてのご来店ありがとうございます!ホストクラブ「Red Circle」へようこそ!!」 初回客が来たか。 常連客のテーブルで台を拭きながら、翔吾はフロアに響く声に耳を向けた。 七月も終わりかけ、本格的な夏の夜。 開放的になった女性達が「ホストクラブ初挑戦♪」と気軽に来店するのは毎年おなじみの光景だ。 街のキャッチも成功率が高めでやる気が出るのか、やたら気合いが入っている。 うちの店のギャル男ホストも、夏じゃね?夏だよね?な、よくわからないノリで接客をしている。 「翔吾さん、ここ終わったら次、あの卓っス」 隣に座るロッシーが耳打ちする。 「初回客だな」 「そうスね」 オレの源氏名は翔吾。32歳。 名前のホストっぽさに反して、あんまりホストとしては稼いでいない。 オレに話しかけてきた若者がロッシー。22歳。 ホストでありYouTuber。 どっちも稼ぎは冴えなくて、どちらかを辞めたら家賃払えねぇ、と嘆いている。 オレたち2人とも、本指名で稼ぐホストというよりは、各テーブルのヘルプに回って調整したり状況をマネージャーに報告したりするホストで……。 まあ要するに売れてないのである。 このテーブルの客は常連の24歳女性。 この若さで常連ってことは、つまり夜のお仕事の人。 爆笑しながら、 「ていうかマジありえんし。ゆーぴょんホント殺すからね」 と担当ホストの肩をバンバン叩いている。 ゆーぴょんとはうちのNo.3、ギャル男ホストの事だ。 「殺すとかマジないし! え、ふつーじゃね? 翔吾さんもそう思うっしょ?」 いきなり話題を振られる。 オレは水割りを作る手を止めて、 「オレはゆーぴょんがナシだと思う」 とオレなりの意見を述べた。 「ほらぁ!」 客が勝ち誇ったように胸を反らす。 ゆーぴょんの気を引こうと着てきたのだろう、胸元の空いた服からおっぱいがチラリとみえる。 ゆーぴょんは余裕の表情で、 「いや翔吾さんは昭和の人間だから」 と、言った。 おいコラ。 確かにホストにしては歳食ってるけどな。 「昭和! え、翔吾さん何歳?」 「23ちゃい」 「え?」 「吉原年齢で」 「ウケる!」 客からひと笑いもらって、オレたちはゆーぴょんのテーブルから初回客のテーブルへと移動した。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!