アリバイ枠の翔吾さん

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佳奈が、 「ねー、ロッシーと翔吾さんはどこ?」 と聞く。 「あー、オレら? ランキングのページにはいないよ」 とロッシー。 佳奈の手からアルバムを奪い、ページのちょうど半分のところを開く。 「はい、ここからオレらランキング外ホストのページ」 ロッシーの言葉に、佳奈が、 「自虐すぎ」 と笑う。 オレは初回限定のシステムを簡単に説明した。 「もちろん無理に場内指名しなくてもいいよ。指名しても15分交代で別のホストに交代。2時間で16人の王子様が佳奈ちゃんにお付き合いするから」 「王子様」 「オレは歳食ってるけどね」 オレの軽口にロッシーが笑う。 いつも場を盛り上げる話のうまい後輩だ。 「で、最後に帰るときに玄関まで送るホスト指名して。一番のお気に入り決めといてね」 「はーい」 佳奈は返事をしながら、物珍しそうにアルバムをめくっている。 磨かれた爪が店の照明にキラキラと輝く。 見ながら、オレは思い返していた。 「オレら、アリバイ枠って呼ばれているらしいですよ」 清掃当番の日、床を磨いているとロッシーが気まずそうにオレに言った。 「アリバイ枠?」 どういう意味だろう。 「ランキング内のホストが影で言ってるらしいんです。強引に営業しない、枕営業もしない、クリーンなホスト」 ロッシーは吐き捨てるように言った。 「マスコミが取材しに来ても警察が捜査に入ってもこの店はクリーンです、って言い張れるホスト。アリバイ要員」 「うまいこと言うな」 「感心してどうするんですか。つまりオレらの価値ってアリバイ要員しかないってバカにされてんですよ」 ロッシーは憤慨した。 アリバイ枠。 金にならないホスト。 月に何100万も稼ぐランキング入りのホストからすれば、オレたちは無能、まぬけに見えるかもしれない。 「お前がイラつく気持ちはわかるけど」 「喋りなら負けてないっスよ、オレ。無理矢理な営業かけてないだけなのに」 「お前の喋りは確かに面白いけど、ランキング入ってなきゃ同じだろ」 オレが諭すように言うと、ロッシーはそりゃそうですけど、と呟いた。 「じゃあ、ホストって一体なんなんですかね」
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