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車が停まったのは、アレッサンドロが所有するプライベートビーチだった。
海に行きたい、誰もいないところ。ミーシャの願いを叶える場所だ。
ミーシャが初めて海を見たのは、このシチリアに来てからだった。壮大さと美しさに酷く感動したミーシャは、特にこのプライベートビーチを気に入った。以来、何かにつけてここを訪れることを好んでいる。
サンダルのまま砂浜に駆けていくミーシャの後ろ姿を、アレッサンドロは眺める。煌めく海面に向かう愛しい姿がくるりと回った。波打ち際で水を蹴って、ミーシャはご機嫌に笑う。
「アル、早く来て!」
無邪気に、と表現するよりは、きゅっと目を細めて大人っぽく。
真っ白な肌が陽光に輝く。日焼け止めは車内で塗りなおした。アレッサンドロは革靴で、歩きにくそうにしながらも、砂浜の上をミーシャに向かって一歩ずつ進む。
ミーシャは足を海水につけていた。悪戯っぽく笑みながら、アレッサンドロに手を伸ばす。
「濡れちゃいますね?」
「構わん」
誘われるまま、アレッサンドロは高級な革靴を海水に浸した。ミーシャをその腕に収めるために。当然仕立ての良いズボンも濡れて、ミーシャは抱き締められながらそれを見てくすくすと笑う。
「……あなたって、俺が何処かへ行くことを本当に怖がってる」
「可笑しいか?」
「だってあなたは何でも持ってるのに。俺が一人いなくなったところで、代わりはいるでしょう?」
「……では、思い知らせてやろう」
「え、きゃあっ」
そう言うやいなや、アレッサンドロはミーシャを軽々と抱き上げて、そして自分もろとも海に倒れ込んだ。
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