アルとミーシャ

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 目覚ましが鳴る前に瞼を持ち上げるのは、この青年の習慣だった。  柔らかいプラチナブロンドが揺れる。彼はカーテンの足元から差し込む僅かな明るさを見つけて、緩慢に体を起こした。すらりと長い手足で支えられる青年の肢体はどこもかしこも細く、そして今は何も纏っていなかった。まだ眠そうに、垂れ気味の目を細め、その瞳の色は青みがかったグレー。長い睫に彩られたそれと、通った鼻梁、細い眉が、その青年の顔を輝かしいものに仕立てていた。くすみの一つもない肌。薄い唇。鋭さよりは重たい印象を与える目元。どれをとっても美しい。  青年は長い脚をベッドから降ろし、立ち上がろうとした。  その腕を、引く者がある。 「……何処に行く、ミーシャ」   低い声は存分に眠気を含んでいて、青年――ミーシャは振り返りながら苦笑した。   夜を共に過ごした、隣の男。 「朝食の準備をしに行くだけですよ、アル。今日はね、パンにジェラート挟んであげます」 「ん……、そんなことはいいから、もう少し寝ろ……」   アルと呼ばれた男は、強引にミーシャを布団の中に引きずり戻す。  その腕は力強くも、年齢を感じさせるものだった。  顔立ちだけで分かる年齢は六十の間近か、過ぎた頃だろう。額にも目元にも、口元にも寄った皺が決定付ける。ミーシャと並ぶとその差は歴然だった。雪のように白く美しい若者の肌と、皺が刻まれた小麦色の肌。  アルの目元を、ミーシャは愛おしげに撫でる。 「朝が弱いの、全然なおらないんだから」 「いいだろ……今日は休みだ……」 「無理矢理休みにして。いつお呼びがかかるか分かりませんよ、ほら、朝ご飯」 「うー……」   窘められても、アルは拒否をするように頭をミーシャの首筋に押し付けた。朝にすこぶる弱いのは、この男の昔からの癖。その逞しい腕にがっちりと抱き寄せられてしまったミーシャに逃げ場はない。自分だけでも起きて朝食の準備をしたいのに、アルがそれを許さない。
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