アルとミーシャ

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「あなたのご寵愛を受ける身です。妬みごとの一つや二つ、聞いて差し上げたって構いはしませんよ」  お姉さま方、というのは、アレッサンドロが他に囲っている愛人たちのことだ。  彼は娼婦以外で抱いた女とは縁を切らない。望むなら屋敷の近くに住まわせるし、金も服も装飾品も贈る。身を固めるということをしてこなかった男で、若い頃からずっと面倒を見てやっている女もいれば、歳を食ってから作った愛人もいた。アレッサンドロと同じように歳を取り、自らの美貌の衰えを感じた女たちは皆アレッサンドロの元を去っていった。今、屋敷の近くに家をもらって住み着き、隙あらばその寵愛を独占しようと目を光らせているのは、三十歳から四十歳前後の女たちだった。皆、ミーシャの前にアレッサンドロに抱かれた女たちである。 ミーシャが来てから、アレッサンドロはあれだけ派手にしていた女遊びをやめた。ミーシャがいるから、他で遊ぶ必要がなくなったのである。  それを不満に思うのは、当然、一応は囲われたままでいる愛人たち。  ミーシャは彼女たちに対しては常に受け身だった。アレッサンドロの寵愛を一身に受け、あまつさえどの愛人も許されることのなかった「同居」までしているミーシャは嫌がらせもされていた。たいていはアレッサンドロが仕事で不在の時を狙ってお茶会を開き、そこで面と向かって罵声を浴びせられたり、わざと不味いものを食べさせられたり。その一つひとつに、ミーシャが反抗したことはない。  アレッサンドロは、その内容については関知していない。攻撃的なことをされているのだとは分かっているが、いかんせんミーシャが何も言わないので分からない。最近は仕事から帰ればミーシャの元へ直行するので、愛人の動向も把握していない現状だ。  今日の休みは、アレッサンドロが無理矢理にもぎ取ったものだった。だから愛人たちにも予想外の休みだったのだろう。  渋い顔をするアレッサンドロの口の端についていたジェラートを指で拭い、ミーシャはにっこりと笑う。 「午後から、海に行きましょうよ。誰もいないところ」 「…………分かった。ただし十二時に帰ってこなければ迎えに行く」  アレッサンドロも、一度は情をかけた女の妬みが分からない男ではない。結局は強く言えず、朝食を片付けてから身支度を始めるミーシャを眺めていた。
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