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「いいのか、こんな俺でも」
「えっ?」
「あ、いや……さっきカフェでお前が、俺に委縮していたかのようなことを言うもんで、ひょっとして、俺という人間を過大評価しているんじゃないか……と思ったんだ。それで……一応、念のために誤解を解いておこうと……それこそ誤解だったのなら謝る」
たしかに、似たような意味のことを渉は言った。が、てっきり鷹村はそれを聞き流しているものとばかり思っていた。まさか覚えてくれていたとは。
「真面目なんだね、涼は」
「真面目……とは言わんだろう。慎重……いや、臆病と言い換えるべきだろうな……これから始まる新しい関係に、怯えているのは何もお前だけじゃない」
そして鷹村ははにかみながら切れ長の目を伏せる。これから始まる関係、というフレーズに、自分で口にして照れてしまったらしい。
新しい関係。
今更のように渉はその事実を噛みしめる。ずっと憧れていた鷹村と、これから新しい関係が始まる。友人としてではなく、恋人としての。
きっと、これから多くの困難が二人の前に立ちはだかることだろう。それは、御園の復讐かもしれないし、同性愛者に対して今なお世間が向ける冷たい眼差しかもしれない。まして鷹村は若くして社会的に成功したビジネスマンで、彼に嫉妬し、あわよくばその栄光の座から引きずり落とそうと目論む人間は多いだろう。
耐えられるだろうか。
否、耐えてみせる。これからも、鷹村とともに生きるためにも。
「涼」
鷹村の隣に腰を下ろすと、渉は自らその肩に身体を預けた。広く逞しいはずの鷹村の肩は、しかし、今はなぜか小刻みに震えている。それは、彼の膝に置かれた彼の拳も同様だった。
その拳に、渉はそっと自身の手を重ねる。
「きっと僕は、君が思う以上に君が好きなんだと思う」
「そう、なのか」
「うん。もちろん、君を誤解している部分はあると思う。過大評価している部分も……でも、それらが解けたからといって、いちいち君を嫌いになるわけがないよ。そういう隠れた部分も含めて僕は、君が好きなんだ」
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