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「べ……別に、ダメってほどじゃ……」
「ダメなんだよ。何というか……一応取り繕ってはいるが、とにかく、肝心なところでダメなんだ、俺は……」
そして鷹村は、ソファにどさりと腰を下ろす。
それから渉は、ひたすら鷹村の愚痴を聞かされる羽目になった。そもそも自分はいつもどこかが抜けていて、普段は可能なかぎり気を使っているが、ふとした瞬間その地金が出てしまい、他人を失望させてしまうこと。
「特に……こういう言い方は何だが、俺はほら、一応、見栄えはする方だろう。それで……期待を持たせてしまうらしいんだ。でも結局、失望されて……俺も好きで失望させているわけじゃない……なのに……」
そう嘆く鷹村は渉にとっては未知の彼で、意外に思う一方、渉は強い親近感を覚えていた。まるで自分を見ているようだ。ひょっとすると鷹村も、同じような理由で渉に好意を抱いてくれていたのかもしれない。
不完全で、至らなくて。
そのことで悩んでばかりいる自分が渉は嫌だった。憎んですらいた。でも、あの鷹村でさえ同じように悩み、苦しんでいるのだと知った今、何となく、これまでよりも少しは自分を愛せる気が渉はした。
「ふふっ」
「な、何が可笑しい」
「あ、いや……今の話、御園さんが聞いたらまた怒るだろうなって」
すると鷹村は、膝に肘を預けたまま弱々しく肩をすくめた。
「そりゃ怒るだろうさ。彼女は、俺がこういう愚痴を吐くのを何よりも嫌っていたからな」
その疲弊しきった表情からは、鷹村の彼女に対する感情の全てが伺える気がした。都合の良い解釈ではあるが、やはり二人は結婚を止めて正解だったのだろう。
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