新しい関係

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「……ありがとう」  長い腕が渉の痩せた肩に回される。肩を掴む強靭な握力。スーツの上着を通じて伝わる鷹村の体温。あらゆる刺激が鷹村の存在を意識させるのは、逆に言えば、渉が全身全霊で鷹村を感じ取っていることのあかしだ。 「好きだ、渉」  耳元で、暑く湿った声が渉の名を囁く。  心臓が、全力疾走直後のごとく早鐘を打ちはじめる。それはパニック時の、あの重く病的な動悸とは明らかに感覚が違っていた。むしろ軽やかに跳ねるような、じゃれつく子猫を思わせる動悸が渉は心地よかった。全身を熱い血が巡り、長らく身体に沈着した重く冷たい何かがじわじわと解けて流れてゆくのを渉ははっきりと感じた。 やがて。ついにその唇が触れ合う。  最初の口づけは、だが、初心な少年のそれのように震えていた。  しかもそれは、尖らせた先端がそっと触れたのみで終わってしまう。鷹村は美男子だし、実際、高校時代は何人もの女子と付き合っていたので、この手の経験は豊富だと渉は勝手に思い込んでいた――ところが。 「……駄目だな」  一応は自覚していたのだろう、自嘲気味に鷹村は嗤う。 「お前が相手だと……どうしても、緊張してしまう」  なぜ、と渉は目で問う。まさか、一度拒まれた過去が彼を臆病にしているのだろうか……と、意を汲んだ鷹村が小さく肩を竦める。 「さぁな。多分……感激しているんだろう」 「感激?」 「ああ……本当に好きな相手とこういう流れになれば、そりゃするさ」 照れくさそうに答えると、ふたたび鷹村は顔を寄せてくる。今度は包み込むように口づけると、唇全体でやんわりと食むように吸った。
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