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俺は、所謂便利屋をやっている。
器用な方だし、どこかに所属するよりも自分で勝負したいと思っていたからだ。
しかし、現実は甘いものではなく、最初の頃は当然仕事なんてなかった。
それでも諦めることなく一つひとつ頑張ってきた。
その成果というべきか、今ではたった一人ではあるが助手を雇えるほどだ。
なかなかに毎日忙しい。
けれど、それほど金銭面に余裕があるわけではないので、事務所兼住まいは間借りしている。
学生の頃からの縁でずっとそこで暮らしている。
そこは昭和の香りが漂う一軒家で、家の外構は石積みの上に金属の柵が立てられて囲われている。
石の門柱の間にはライオンの顔にかたどられた持ち手の懐かしい門扉がある。
門扉を抜けると柘榴の木や金柑の木、季節の植物が植えられている。
これは先代からの趣味だという。
決して広くはないがたくさんの植物がある。
玄関はガラスの引き戸で、中は三和土になっている。
高めの式台を上がると右手に階段。
そこを上がって手前の部屋、それが俺の部屋だ。
京間を採用した八畳の和室。
扉はすりガラスを使った障子戸。
押入れもあって使い勝手は良い。
テレビとエアコン、パソコンは自分で揃えた。
振り子時計に黒電話、重厚感のある座卓、そして熊の木彫りは備え付け。
隣の部屋とは松の絵のふすま戸で仕切られている。
ただ、欄間もあるので音は完全に漏れる。
しかし、そこは部下が借りているから、とりあえず問題はない。
俺はそんな八畳間で、便利屋として働き、そして暮らしている。
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