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ゴミ袋を両手でさげて、ちっぽけな少女がふり返る。たれ目がちの大きな瞳が、たずねるようにオレを見あげる。
「ご、ゴミ! 重いだろ? オレが捨てに行くっ!」
オレはさらに大またで歩いて行って、横にならぶと、ゴミ袋を、くいと綾の手から取りあげた。
「わっ!! えっ!?」
綾の声がとびはねる。
くだらないこと。
あのときの非日常とはくらべものにならない、ありふれた日常。
「……ありがと。ヨウちゃん」
わたがしのように甘ったるい声が、左耳の鼓膜をゆらした。
ハッと横を見る。
綾が笑っていた。
顔中にひろがる朝日のような笑み。
心臓がカンガルーのようにとびはねて、瞬間的に正面に向き直っていた。
くそ……しっぱいした。
また、顔をゆっくり、見損ねたっ!
それでも、一歩。
相手に近づいて。
二歩、三歩。
この気持ちに寄りそって。
――おわり――
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