第1章  お疲れさまの金曜日 

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「クルージング?」  封筒に入ったチケットの文字を確かめて、祐樹が驚いた顔になった。それを見た孝弘がうれしそうに笑う。    デートしよう、と孝弘が出してきたのは横浜港発のディナー付きクルージングチケットだった。  トラブル続きだった中国出張から帰国して一週間。ようやく金曜日を迎えて、生ビールで乾杯したところで、孝弘からデートのお誘いを受けたのだ。  個室タイプの居酒屋は人目を気にせず話ができるのがいい。  堀こたつ式のテーブルに90度の位置で座っているから、孝弘のいたずらな左手がすぐに祐樹の髪や頬をなでてくるが、それも没問題(メイウェンティ)。 「そう。食事がおいしくて楽しいって」 「いつの間にこんな手配してるんだか」  孝弘の今回の帰国期間は中国のビザをとる関係上、五週間ほどだ。  連日かなり忙しいはずなのに、この手際のよさ。  サプライズにうれしくて頬がゆるむ。だらしない顔になっていると思ったが、孝弘の手がやさしく頬をなでるからまあいいかと気持ちもゆるむ。
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