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ずっと、ずっとずっと想い続けて来た人。
出会ったと時は、スーツをピシッと着た警察官だったけど、今はあの面影は何処にもない。
ただ、ミントの匂いだけは一緒だった。
あの時と同じガムの匂いが、漢助からする。
「一人にしてごめんな……」
そして、低くて優しい声音は、眠る十汰の心にも届く。
その声に、十汰の夢はいつも明るい物と変換され、好きな人の側にいれるって、こんなにも幸せな物なのかと思わせられる。それほど、漢助の存在は十汰にとって絶大だった。
「トオタ大丈夫だった?」
「いや、魘されてた……」
「そうか……。まだ、あのトラウマが抜けないか……」
「あぁ……。あの時と同じ条件になると、突発的に発作が起きる……」
漢助が誰かと話している。たぶん、下の階の弁護士、幸村誠だろう。
十汰を〝トオタ〟と呼ぶのは誠しかいない。
「ん……」
十汰は誠の声を聞き、ゆっくりと目を開けた。そして、大きな両目をゴシゴシっと手の甲で擦る。
「あっ。ごめん、起こしちゃった?」
「ううん……全然大丈夫。こんにちは……幸村先生」
「こんにちは、トオタ君。久しぶりだね。少し大きくなった?」
「フハッ。先生、いつもそれ言うけど、俺もう成長期終わったんだけど」
「そうなの? 僕の時は二十五まで伸びたけどなー」
「それ、伸びすぎだから」
そんな談笑をしていると、漢助が十汰の身体を離し、リビングへと行ってしまう。
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