第6章 執着

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***  あの日から一週間が経った頃。突然、絢から事務所に電話が入った。  突然、長信が姿を消したらしい……。  まさかの展開に漢助は通話中にも関わらず舌打ちをし、食べかけのアイスをほっぽり、外出する支度をし始めた。  そんな漢助に、十汰は洗い終えた食器を拭く手を止め、慌てて近寄った。 「ちょっと白石と会ってくる」 「うん、気を付けてね」 「あぁ。お前は家から出るなよ」 「え? でも、俺、今日は夏休みの課題を教授に見せに行く予定だったんだけど……」  それは、三日前に突然決まった事だった。  急に大学の事務員と名乗る人間から電話が来て、十汰が取っているゼミの教授が、ゼミ生全員の課題の経過を見せて欲しいと言っていますと連絡が来た。  友人に連絡してみると、その友人達にも連絡が行っているらしく、嘘ではないらしい。  でも、突然そんな連絡が来るのは不思議だと、十汰は不信感を抱いていたのだった。 「それでもだ。予定は変更して貰え」 「そ、そんな急に無理だよ」  友人にも、その事務員にも行くと伝えてしまった。行くと言って行かないとなると、あの気難しい教授の事だ。単位が貰えないなんて事になる可能性もある。 「急に連絡を入れて来たそいつが悪い」 「でも……」 「十汰」 「……分かった」  漢助にそう念を押され、十汰は渋々頷いた。  その返答を聞き、漢助は慌ててリビングを出て外へと出て行ったのだった。 「つまんない……」  この一週間は殆ど家の中にいた。  買い出しは漢助が行ってくれて、最初の方は楽といえば楽ではあったが、それが一週間も続くと身体がウズウズしてくる。  ようやく外に出れると思ったのに……。  それに、大学までは漢助が車を出してくれると言っていたし、帰りも夕食を何処かで食べようと話していたのだ。  だから、色々と検索して、お肉が美味しい焼肉屋を見付けたのに……最悪だ。
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