第6章 執着

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 十汰は珈琲でも飲みながら録画していた映画でも見ようと、まだ半乾きの洗濯物を脱衣所に戻し、またキッチンへと戻った。  そして、スマホを弄り、友人に今日は行かない事を伝える。  すると---ピンポーン、と、インターホンが鳴る音が聞こえた。  十汰はそのインターホンを聞き、習慣的に事務所へと向かってしまう。  でも、出るか出ないか悩んだ。  漢助に出るなと言われているのだ。 「すみませーん。葉山さきえさんからお届け物でーす」  でも、ドア越しに聞こえたその名前に、十汰は躊躇いもなくドアを開けてしまう。  さきえからのお届け物なら、何か依頼についての物かもしれない。そう思ったからだ。 「はい、お待たせしまし……」  けれど、ドアを開けた瞬間、十汰はしまったと思った。何故なら、目の前には宅配会社の制服を着た人間なんて何処にもいなかった。  いたのは---。 「久しぶり……」  そう言った、般若の面を被った男だった。 「なっ、なんでっ……ウッ……」  十汰は恐怖と驚きのあまり動きが止まってしまった。身体は震え、声も震えた。  そんな十汰に般若の面を被った男がそれを分かっていたかのようにクスッと笑い、俊敏に十汰に近付いてきたのだった。  そして、十汰の口に甘い香りのするハンカチを押さえ、クスクスと笑った。  その後の事は、十汰には分からない---。
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