第6章 執着

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 声が聞こえる。男の話し声だ。  それに、この臭い。前にも嗅いだ事がある。独特なアルコールの臭い……。 (誰……?)  十汰は朦朧とする意識の中、ゆっくりと目を開け辺りを見渡した。  でも、目を開けて身体が強張る。  何故なら、壁一面に十汰の写真が貼ってあるからだ。  それも、五年前のと今、現在の姿の物だ。  十汰はその写真を見て逃げ出そうと身体を動かした瞬間、身体が動かない事に気付いた。  拘束されていたのだ。  倒された形で、両手首をロープでグルグル巻きだ。 「目、覚めた?」  その声に十汰は寝転がりながらパッと首だけを動かし、声のした方を見る。  そこには般若の面を被り、黒いジャージで身を包む男がパイプ椅子に座っていたのだった。  十汰はその声にようやく五年前の男が同一人物だと気付く。  そして、もう一つ気付いた事。それは……。 「あんた…だったんだ……」  十汰はようやく面の奥の男の存在が誰なのか気付いた。  やっぱり、あの掴まれた時に感じた感触は同じ物だった。  コンビニで会ったこの男と。 「水沼さん……」  そう。目の前にいる般若の面を被った男。それは、絢の相棒でもある警察官の水沼信之助だった。  まさか、この男が般若の面を被った男だったとは。何故、もっと前に気付かなかったのだろう。  五年の歳月が鈍らせたのだろうか。 「水沼さんとか他人行儀やめて欲しいなー。触りあった仲じゃん」  そう言って、被っていた面を外した信之助。その顔は前に見た時とは別人のように怖く見えた。 「! そ、それはあんたが一方的にして来たんだろッ! 五年前も、この間も!」  十汰は覚醒してきて頭で信之助に対して憤りをぶつける。  でも、そんな十汰を見ても信之助はニコニコ笑うだけで怯んだりはしない。
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