第6章 執着

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 訳が分からない。  五年前も、今のこの状況も、全て何が何だか分からない。なんで、自分が狙われてしまったのか。そこが未だに全く分からないのだ。 「五年前……なんで俺を拉致したの?」  十汰は犯人が見付かったら絶対に聞きたいと思っていた事をようやく聞く。  だって、信之助とは面識が無い。五年前もその前も、会って話した記憶はいくら考えても出ては来ない。だから、初めて会って会話した時も、何も違和感を感じなかった。  それに、五年前の犯人はもっと年が上だと思っていた十汰は、信之助が般若の面の男だとどうしても思えなかった。  三十代か四十代そこそこ。それくらい上だと思っていた。  何故なら、シルエットが違う。五年前に十汰を拉致した男はもっと肉付きが良かった。でも、今の信之助は無駄な贅肉なんてないくらい細い。 「えー。前に言ったじゃん俺って気に入った物はすっごく愛でたくなる男だってぇー」  その言葉に、信之助と初めて会った日を思い出す。連絡先を交換した時に、そんな事を言っていた気がする。 「五年前、俺は君の向かいの家に住んでたんだよ」 「え……? 向かいの家?」  そう言われ、十汰は自宅の向かいの家を思い出そうとした。でも、そこは古い洋館のような場所で、そこを出入りしている人間は一度も見た事はなかった。  表札さえも気にも留めた事はなく、ただ、噂ではそこには警察官の偉い人間が住んでいたとだけは聞いた事はあった。  でも、そこに人が住んでいる形跡はなかったはずだ。 「ずっと、部屋から出る事なく父親を待ってた……。俺の親父はさ、警視総監なんだ。すげー偉いんだよ」  そう言った信之助の目は、父親を尊敬していると語っていた。
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