第6章 執着

9/11

353人が本棚に入れています
本棚に追加
/157ページ
 恐ろしくて、自分の口からは言えないストーリー。普通の人には考えられないそのシナリオ。 「だから、俺の名前を他織は知ってたんだ……」  あの時感じた違和感。それは、長信と初めて会ったはずなのに、別れ際、名前を呼ばれた事だ。  こっちは名乗っていなかった。 「なに? あいつじゅったんの名前聞く前に言ってたの? うわ、それは想定外」  そう言ってクスクスと笑う信之助。 「結構上手くやってくれる奴だったのになー。俺の指示も全て素直に従ってた」 「雪音さんの家に盗聴器を仕掛けたのもあんた?」 「そうそう。それはやっぱりあいつには無理だもんね。この俺が直々に出向いたわけ」 「なら、他織を雪音さんにストーキングさせたのもあんたの入れ知恵?」 「ピンポーン。大正解! そしたら、あいつ俺が思った通りにしてくれてさ、彼女バーンって自ら電柱にぶつかってった」 「!」  この男。その口ぶりからするに、その現場を見ていた。見てて、自分のシナリオが上手くいった事に喜びを感じてた。 「後は俺の出番。白石先輩について行って、あいつの店から花束を買って、じゅったんと感動的な再会。からの連絡先交換。幸せな時間だったよ……」  そのイカれた話しに、十汰は雪音はこの男によって殺されたと言っても良いのではないだろうかと考え始めた。 「でも、証拠なんて残してないから捕まらないよ。俺はね」 「そんなの、漢助が見付ける」 「 それは無理だねー。まぁ、長信はどうか分かんないけど、俺は絶対に捕まらないよ……五年前も捕まらなかったし」  そうだ。五年前も信之助は捕まらなかった。  でもそれは、信之助の存在が掴めなかったからだと十汰はずっと思ってた。
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

353人が本棚に入れています
本棚に追加