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その漢助の視線。それは、誰が見ても恋をしているようにしか見えない。
見惚れている。そう言えば伝わりやすいかもしれない。
「こんな美人な男が側にいたら、確かに男に走っちゃうよねー。俺がじゅったんに惹かれたように」
信之助はそう言うとクスクスッと笑う。そして、ニコッと笑いながらまた話しを続けた。
「この青年。名前なんだと思う?」
「え……?」
「誰かに似てない?」
そう言われ、ふと頭にある人物が浮かんだ。でも、それが正解とは自信を持って言えない。でも、見れば見るほど似てる気がする。
「幸村誠」
「!」
「そう、思わなかった?」
その言葉に、十汰はやっぱりそうなのかと、信之助を見詰めた。
「……じゃあ、この人って……」
「幸村誠一。幸村誠法律事務所の兄貴だよ」
信之助はそう言うと、また漢助の話しに戻った。ここからが重要。そう、言葉を添えて。
「この人の死をきっかけに、伊達坂漢助はなりたくなかった警察官に進んだ。たぶん、大切な人の死を無駄にはしたくなかったんじゃないかな」
「え……?」
「助けを求めている人の声をちゃんと聞きたくて警察官になった。周りにはそう言ってたみたい」
だって……。そう信之助は言って間を置いた。そして、お腹を抱えて笑いだす。
「この人、俺みたいな執着が強ーい男に目を付けられて、ストーカーされ続けてたんだよ。でも、その当時は男が男にストーカーなんて事例がなくて、警察は真に受けなかった。その結果、その男は長信のように行動を起こし、幸村誠一は伊達坂漢助の目の前で刺されて死んだ」
「!」
「あの時警察がちゃんと話しを聞いてたら。真に受けてたら……そんな事件は起きなかった。でもね、それ、世間には知られてないんだよ」
「……どうして?」
「隠蔽」
「隠蔽……?」
「その男はさ、政府のお偉いさんの息子だったわけだよ。だから、その場で逮捕されても即釈放だったんだ……」
「え……?」
「上の人間が政府のその人と仲が良くてね、俺の時みたいに簡単に解放してくれた」
その話しに、ゾワッと音が出てもおかしくないほどに鳥肌が立った。
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